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● Wonderful Every Day --- O・S君の悲劇…? ●


「ちょっ、待てよ!なんで同棲ごときで殺されなくちゃならん!?寮だから別にいいだろうがっ!それに俺が選んで決めたわけでもないし」

「ふっ、愚問だな。尚史ちゃん」

「FCとは先ほども言ったとおり熱き漢たちの集いし場!例え誰であろうとも、そこにどんな理由があろうとも己の夢スペシャルドリームに触れようとする者は敵でしかないのだ!」

未来さんが俺の眉間に人差し指を突き付けるのと同時に亜耶姉がこちらに背を向け、どこか遠くを見ながらグッとガッツポーズを決める。
なんとなくふたりにスポットライトが当たっているような気がしなくもない。
ってか、ツッコミどころが多すぎてなにがなにやら…

「まぁ、中にはそこまで熱血漢じゃないところもあるんだけどね」

未来さんが言い終わるかいい終わらないかのうちにフッと部屋の電気が消える。
ここは驚くのが筋というもんだとは思うが、生憎二十数人の黒服集団に胴上げされた挙句投げ飛ばされた直後の今の俺にとってはそこまで効果はない。
ってか、確実に亜耶姉か未来さんがやったことだろうからそこまで心配してないってのも一理あるかも。

…にしても、畳12枚分程度のスペースとはいえ、まわりはコンクリートむき出しの無表情な壁だ。
まったく何も見えやしねぇ。

…カシャンッ

自分の背後にどこからか突然スポットライトがあてられる。
そこにはいつの間に動かしたのか総合学習の時間にでも使うようなホワイトボードが置いてあった。
真白な面には何も書かれていない代わりに…何かのコピーだろうか?裏返しにされた用紙が何枚か張られている。

「一年くらい前にね大きなファンクラブを持つ女子生徒…」

そのうちの一枚を手に取り、神妙な顔つきで眺めてからホワイトボードに表を向けて貼り付ける亜耶姉。
そこには何故か目に黒い線を引かれた女子生徒の――って、

「あのさぁ。それって瀬里n――「M・Sさんに男子生徒O・S君がナンパしたときのことなんだけど…」

明らかに『宮嵜 瀬里奈』な写真が拡大コピーされていた。
ってか、『山内学園美少女ファイル』あんなもの見せた後なんだからプライバシーなんかもうどうでもいいだろうが。

未来さんが一昔前に有名だった芸人よろしく、両手に人形をはめてホワイトボードの後ろから出てくると、右手の男子生徒らしき人形を動かす。

『やぁ!瀬里奈さん。こんなところで会うなんて奇遇だねぇ!と、言っても校門なんだけどさ。ところで宮嵜って名前珍しいよねぇ。なんか堅苦しそうだなぁ〜、もっとかわいらしい名前がいいなぁと俺は思うんだよね。あっ!大宮瀬里奈って名前すっごくいいと思わない?うん、響き的にかわいらしいね!美しいね!萌えを感じさせるねっ!と、いうわけで結婚を前提に付き合ったりなんかしちゃわないかなあ?』

うぁ、未来さん隠す気数値以下だな…。

『え、えぇと…ご、ごめんなさいっ!私、お買い物行かないといけないのでっ!』

と、半ば逃げるようにとてとてと未来さんの背中にまわる瀬里奈人形。
相変わらず声真似が上手い…実際の大宮君とやらは見たことないが、十分に人柄がわかる口調だ。
それにしても、そんな変態がこの学校にはいるのか…晄やセイジなんかは序の口だったわけか。

「その次の日、裸で巻きにされてオデコに油性ペンで『内』って書かれたO・S君が校舎の大時計の針に縛り付けられているのが発見されたわ」

「ヒドッ!!」

そこまでするか?フツー。
ってか、『内』じゃなくて『肉』だろ!!
アレか?「貴様にはいまひとつ人が足らないところがある」ってな意味込めたのか!?上手い!何気に上手いぞFC!!!!!

と、スポットライトも消えまた部屋全体が明るくなる。

「とりあえず、ナンパでこうなんだから同居なんかしてたら命を狙われる可能性があるのよ!」

んなバカなっ!…と、叫び返したいのもヤマヤマだがさっきの人形劇みたいなのが実際に行われているとしたらマジで殺されるかもしれん…。
って、アレ?

「そういえば晄はどうなるんだ?谷村 晄!アイツは結構前から同居してるっぽいけどメチャクチャ健康そうだぞ!?」

自分で言いながらさっき学食で別れるまでの晄を思い出す。
どこにも油性ペンの落書きもなかったし、傷もないみたいだった…そう、少なくとも命を狙われているようには見えなかったよな?

「うん。私たちも危険だと思って声をかけたことがあったんだけどね…」

「『俺は大丈夫です』って、爽やかスマイルでやり過ごされちゃったんだよ…一応と思って時々様子見てたんだけど晄ちゃんはなんでかFCに追われないんだよね〜」

「はぁ?…あ、なんか相手の弱みでも握ったのかな?」

情報屋だし。と続けようと思ったが、晄が情報屋なのはこの学校じゃぁ有名らしく、二人とも知っているようだった。

「私たちもそうだと踏んでるんだけどいまいち確証がないのよねぇ…」

ま、今度本人に直接聞いてみるか。
晄の方が先輩なんだし、なんかネタでも教えてもらえば俺も平和に暮らせるのかもしれん。


キーンコーン♪


天井についたスピーカーから例の不条理な鐘の音が聞こえてくる。
どうも、授業開始の5分前(時間は確かなのか…?)チャイムらしい。
次の授業はなんだっけ?…とにかく教室に戻らないとやばいだろうな。
見た感じ出口はさっき俺が放り込まれたハッチくらいしか無さそうだから、開けてもらうか。

「亜耶姉。あのさ…」

「大丈夫大丈夫。さすがに授業放棄させるような真似はしないよ。それじゃぁ右に7歩小股で歩いて?」

ハッチは使わないのか?と一瞬疑問に思ったが、とりあえず帰らせてくれるらしいので言われた通りに亜耶姉たちの方を向いたままカニのように横歩きで進む。

「次に大股で3歩前へ」

「あ、行き過ぎ。もう半歩くらい後ろに下がって…うん、そこそこ。それじゃぁちょっと待っててね」

たどり着いたのはコンクリートの柱らしき出っ張りがある壁の前。
あのハッチがあったくらいだ。たぶん、この柱も何所かに通じる扉のようなものになってるんだろうな。

SF映画の主人公にでもなったつもりで、ちょっとわくわくしながら待っていると機械の動く低音がブーンと聞こえてきた。

「それじゃ授業遅れるんじゃないぞっ!」

「じゃぁね尚史ちゃん」

二人が笑顔で手を振るのと足元の床が無くなるのはほぼ同時だった。

「うぉぉぉぉおおおおぉぉおおおおおおお!!!!!!!?」

これまでの…いや、これからの人生でも今日以上に叫ぶことはないだろうな。
そんなことを思いながらどこまで伸びているのかわからないような垂直スロープを落下していく尚史だった。
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