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● Wonderful Every Day --- Happy Happy Haruharu ●

あれだけ高い所から落ちたのに、着地した衝撃は思っていたよりも少なかった。
それというのも…

「………うっ……うぅ……」

今、おれの足の下でピクついている男子生徒のおかげだ。
ちなみに落ちてきたのは廊下。授業5分前のはずだが教室に入っている生徒は少なく、おそらく視界に入る生徒全員が昨日始業式で校長を泣かせた転校生が学年色からみて学年が2つ上の先輩に垂直落下で床に組み伏せたのを目撃したはずだ。
それを証明するかのように何人かは「10秒チャージ10秒チャージ」と話合っている。
ってか、おじさんがあんだけ大声でマイクしたのに名前覚えてくれてないどころか間違って記憶されてるっぽい。悲しいというかなんというか。

それにしても、ここどこだ?
山内学園なのは間違いないだろうけど……1−Cに戻れるかなぁ?
何せ。まだこのバカでっかいマンモス高校に来て2日目。
自分の教室はおろか何処に何があるかなんてまったくもってわからない。
まぁ、どうしようもなくなったら、この生まれ持った特技とも呼べる長所『チョー人見知りしない性格』にものを言わせて近くの教室に踏み込んで誰かに聞くとするか。
とりあえず、いつまでも人の上に乗っかってるわけにもいかないので立ち上がって横にどく。

「っ!?」

極至近距離で声にならない悲鳴をあげられ、顔をあげる。と、

「ナイスバディなかわいい後輩(妹属性付きのお得バージョン)を押し倒しに来たですかっ!!昨日のこともありますけど学校でなんて大胆ですねぇ〜」

「いや、ハルちゃん違うよねっ!?違うよねっ!?」

ってか、お得バージョンの意味が理解できません。

「尚先輩は思ってることがすぐに顔に出るですよ。今後、気をつけるです」

「ぜ、善処いたします」

「うん。頑張れです」

「き、貴様ぁ!」

振り返ると、さっき自分がプレスしてしまった男子生徒が立ち上がり俺を睨みつけていた。
怒ってるらしい。まぁ、当然といやぁ当然だ。
俺もいきなり上から押しつぶされたりしたらたまったもんじゃないしな。

「ごめんな。でも、助かったよ。あんたがいなけりゃ今ごr――「おのれ山内ぃっ!我らがハルハルに気安く声をかけるとは何ごとかっ!」

ん?どうもプレスしてしまったことには怒ってないらしいな。
ってか『我らがハルハル』……………………………………?

「え〜と…ハルハル?」

「いえ、ハルちゃんです!」

俺の制服の袖をしっかり握りしめた手は離さずにビシィッと敬礼もどきをしながらこちらを見上げる。

「う〜ん…これ誰?」

「………さぁ?」

「と、いうわけでこれはあんたの言ってるハルハルじゃないし、あんたのことも知らないみたいだぞ?」

「わからなくて当然だろう!俺様がつけた愛称だし、俺様はストーカーだしな!」

ストーキング途中にお前が現れたからバレテしまったがな――と、続ける。

「―――それに山内、先程から聞いておれば“あんた”などと呼びおって。俺様のことを知らぬのか?この際だ。名乗っておいてやろう。俺様は『ハッピー ハッピー ハルハルの会』通称『HHH』の会長富山とみやま  りくだ!覚えれるか?覚えたか?覚えろよ?」

あぁ〜。突然来やがったっていうか。登場早すぎるっていうか…。
どうも、さっき亜耶姉から聞いたうちのひとつ。ハルちゃんのFCらしい。
ってか、その安価すぎるネーミングはどうにかならんのか?
なんかどこかで聞いたことあるようなセンスの無さだけど。

「ま、俺様も寛大だからな。今回のことはハルハルの前だったこともあるし見逃してやろう。ありがたく思えよ!皆の者ずらかるぞっ!」

そう言い放ったかと思うと、いつの間にか現れた2、3人の男と共に廊下を駆け抜けて行った。
生徒会の黒服ズといい、今のFCといいこの学校にはどんだけ忍者がいるんだよ。

「え〜と。ところで尚先輩はどうして上から降ってきたですか?と、いうかなんで中等部の棟にいるですか?」

さっきまでのことはもう忘れましたとでもいわんばかりに、だいぶ今更感漂う質問を口にするハルちゃんに少々驚きを覚えつつも、今までの経緯を応え終えてから、自分の教室への道筋を教えてもらう。

「おっちょこちょいですねぇ〜。わざわざ押し倒しに来てくれたのは褒めてあげますけど、帰り道ぐらい覚えてて下さいです」

アレ?俺今さっき経緯とか話したよね?
もしかしなくても俺の話聞いてなかったよね?もしくは信じてないよね?

「えへっ。じょ〜だんです」

そう笑うハルちゃんの頭をくしゃくしゃして報復してからその場を立ち去る。
ハルちゃんの話では思ったより遠くはないようだけど、5分以内に教室につけるかどうか…。
いやっ!かつて俊足の尚史と自称したこの俺がこの人生において授業に遅刻するなどという汚点を残すわけがないっ!!
小学生のときに美人な先生に手取り足取り教えてもらったおかげで体にしっかり染みついているスタンディングスタートの姿勢をとる。
一度目を閉じ、大きく深呼吸をしてから今から走り抜けていく先をしっかりと見つめなおす。

―――今だっ!

「うぉぉぉぉおおおお!!!!!」

自分の中で何かが噴き出すような気がした。
体がどこからか吹き始めた春風と一体化した感じがした。

今なら世界を狙える気がするっ!!

「わぁーーーーーーるどかっぷーーーー!」



キーンコーン♪

山内尚史。初授業遅刻。
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