●● Wonderful Every Day --- 磯間町 ●●
『次は磯間町ぉ〜、磯間町でございます。お降りの方はお忘れ物の無いようご注意ください』
『ピンポ〜ン、次、止まります』
…アナウンスの後に聞こえたのは空耳ということにしておいた方が良さそうだ。
「よっと、磯間町とーちゃーく!」
電車と駅のホームの隙間を飛び越えて体操選手みたいに両手を挙げる。
「とぉちゃ〜く!」
お!ちっちゃいのが俺と同じことやってる。
…な、泣いてなんかないもん!
「で、おじさんはどこだ?」
父さんは『向こうの駅で待ってるはずだ〜』とか言ってたけど…
「あ!尚史〜!」
何かが向こうから走って来る。あれは…
「あ、亜耶姉!?…ヴアァッ!」
猛烈なスピードで飛び込んできた亜耶姉に突き飛ばされる俺。
飛ばされてる最中、俺の脳内にずっと前にテレビで見た車の衝突実験がフラッシュバック。
で、10メートルくらい飛んだ俺の上に何かがのしかかる。
「イェーイ!尚史ゲットだぜ!」
某アニメの主人公みたく笑顔で誰かに向かい報告する亜耶姉。
「亜耶姉…お、降りてくれ!」
私の体には女子高生を乗せても平気なまでの力はないのだよ!ワトスン君!
「ダーメ!尚史がもがき苦しみ死に逝くのをこの眼でしっかりと見届けるのだ!」
「いや、マジで降りろ!」
苦しいのもあるけど、そんなことより周りの目線がイタイ。
ここ駅のホームのど真ん中だぞ!?女子高生がかよわい男の子にのしかかってるってどうよ?
と、亜耶姉が今にもエッヘンと言いそうに腕組みをしながら
「アイスを買ってくれるなら考えてあげよう!」
…アンタハ何様ノツモリデスカ?
「わかった!買ってやるから降りろ!」
「あらぁ?な〜にその態度は?」
亜耶姉の口元が少し上がる。
「降りてください! 亜耶お姉さま」
ちなみに、亜耶姉の本名は山内 亜耶。俺よりもひとつだけ歳上の従姉だ。
昔は『亜耶お姉ちゃん』って呼んでたけど、今は面倒だからさっきから言ってるみたいに『亜耶姉』って呼んでる。
「わかればよろしい!」
亜耶姉が退くと大きく息を吸い込む。
はぁ、なんとか呼吸器官は大丈夫だったらしい。
「さあ!売店に行こうか!」
何事も無かったように歩き出す亜耶姉。
…恐るべし。
「ちょっ!待てよ!」
そう叫んでスタスタと歩いていく亜耶姉の後を追いかける。
…別にモノマネしてるわけじゃないぞ?
「おじさんは?俺を迎えに来てるはずなんだけど…」
「ああ、お父さんなら大事な話し合いがあるとかで来れないって。それで、かわりに私が来たってわけ」
そっか、おじさん校長だから大変だもんな。
「じゃ、アイス買いに行こっ!」
「うぁっ!引っ張んないで!腕がちぎれる〜」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「亜耶姉、そんなに食えるのか?」
「トーゼン!尚史のおごりだし!」
そう言う亜耶姉の持つかごには明らかにアイスクリームが1ケタ以上入ってる。
そういや、昔からアイス好きだったなこの人。
「あらま、お兄ちゃん優しいのね〜!あんたも良い『彼氏』見つけたじゃないの〜!」
見知らぬおばさんが話し掛けてくる。
ってか俺たちそんなふうに見えるのか?
「はい、アリガトーございます〜♪自慢の彼なんでぇそう言われるとぉすっごく嬉しいですぅ♪」
とたんに亜耶姉の口調が変わる。
「亜耶姉遊ぶな!すいません、俺たちそんなんじゃないんで」
「あらそうなの〜、ごめんなさいね〜」
そう言って去っていくおばさん。
「もう、結構楽しかったのに〜。あ、そうそう、もうこんなもんでいいから、後はよろしく!」
そう言って亜耶姉にかごを渡される。ってか重!
ちなみに、合計は…せ、1575円!?あ〜、俺のわずかな小遣いがぁ〜。
「で、今からどこに行くの?俺行き先聞いてないよ?」
「もちろん!ふたりの『愛の巣』へ!」
「ふ〜ん、どっちの家?」
軽く無視。突っ込むのがメンドイ。
「もちろん私の家!アイス片づけないといけないでしょ?」
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