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● Wonderful Every Day --- お引越し ●

「おい!起きろやこら!てめぇなめとんのかボケ!」

「うっせえなぁ。もう少し寝てえんだよ!必殺尚史チョップ!」

野郎は俺の必殺チョップで静かになった。どうやらただの屍のようだ。

「ハッハッハ!我の眠りをさまたげる者はこうなるのだ!」

俺の名前は山内やまうち 尚史なおと。今年で高校生になる。
勘違いされても困るから言っておくと俺が今倒したのは先週買った『バリエーション目覚まし』なるもの。
この目覚ましは今の『危ない兄ちゃんモード』の他に何種類かモードがあって毎朝モードが変わる。
これが結構おもしろくて毎朝なにか反応してから目覚ましをとめるという作業が俺の日課になりつつある。ちなみにまだ全部の種類を聞いてない。
ってか、何種類あるのか知らん。

「尚史〜、起きたのぉ?」

一階から母さんの声が聞こえる。

「うーん、今行くー」

まだ眠い頭で部屋を見渡して何も無いことを確認する。
そう、何も無い。でも、別に生活に困っているわけではない。
実は今日引っ越しすることになっているんだ。
しかも、一人暮らし!
…まあ、そうはいっても寮生活だけどな。
引越しすると知ったのはちょうど今日から一週間前のことだった…









Wonderful Every Day  〜素晴らしい日々〜

                   by. Gentle impostor









=========1週間前=========



「父さんたちは来週から出張だ〜!」

その日、父さんは会社から帰ってきてイキナリそう言った。

「また!?」

当然驚く俺。
『また!?』でわかると思うけど俺の両親はよく出張する。

「そう、今度はアマリカ王国よ!そうよね?」

母さんが嬉しそうに父さんに確認する。

「おう!で、今回はちょっと長いかもしれない」

「長いってどのくらい?」

「そうだな、だいたい1年くらいだな」

「長っ!!」

ってか、『ちょっと』どころじゃねぇ。

「すまないが、今回も尚史を連れて行けないんだ」

実は俺は両親の仕事を知らない。
前にも何度か聞いたことがあるけど、いつも話をはぐらかされる。
まあ、別に知らなくても困ることじゃないから気にしてない。
困ったのは…小学校のときの作文くらいか?
それにしても、『出張だ〜』とか言って2、3週間二人していなくなるのは今まで何度かあったけど1年間いないというのは初めてだよなぁ。

「それでな。優しい父さん母さんはおまえが暮らせる場所を見つけといた。実はさっき帰ってくる前に大家さんに『いままでありがとうございまた!』ってカッコつけて引越しの申請書類出しちゃったし、おまえが通うことになった高校にも入学できるようにしちゃったからもう後には引けないんだ!ガンバレ息子よ!ちなみにここに通うことになる」

「…あいかわらず自分勝手だな」

「こらこら。そんなこと言わないの〜」

あんまり怒ってなさそうな母さんの横で、父さんはドデカイ習字紙を自分のカバンから取り出す。
その紙には大きく【祝!山内学園入学】の毛筆文字。

俺の親は出張するたびに俺の人生をかき回していく。
しかも、本人達は『尚史のためにやってあげてる』つもりだから尚更困る。
たしか、この前のときは1ヶ月近く無人島生活をさせられたっけか?

「なんで、毛筆?」

「…書きたくなったから?」

まったく暇人父さんめ。ってか、自分で言っておいて『?』つけんなよ。

「それにしても、山内学園?…もしかして親戚かなにか?」

「おお、するどいな。そこは正樹まさきがやってる学校だ」

…俺冗談のつもりで言ったんだけど。
ちなみに、『正樹』っていうのは父さんの弟。つまり俺からしておじさんの名前だ。
それにしてもおじさんが学校なんてやってるなんて初耳だぞ?

「それでな、父さんたち長い間尚史を世話できないだろ?正樹のやつお前のことが大好きなもんだから喜んで編入っていうか入学っていうか微妙なところだけど引き受けてくれたよ。よかったなぁ〜」

「う〜ん、確かに嬉しいけど俺はどこに住めばいい?やっぱ、おじさんの家?」

ってことはあの亜耶あや姉と同棲かぁ。
…絶対に何かが起こるな。
部屋に鍵とか付けないといかんかもしれん。

「ああ、そうじゃない。正樹は引き取るって言ってくれたんだが正樹の家も亜耶ちゃんがいるだろ?それじゃぁさすがに大変だから学園の寮で住んでほしいんだと。あ、でもお前の世話だとかはしてくれるから安心しろ。お金は毎月父さんが振り込んどくから心配しなくてもいいぞ?」

「…う〜ん、わかった」

まだ、ちょっと飲み込めないけど…まぁ大体の事はわかった。

「じゃあ、来週の日曜日に引越しだから準備しなさいね」

「いくらなんでも急すぎっ!」

「「まあまあ」」

うぁ、ハモッた!!
これが夫婦の成せる業ってやつか?


 =======そして引越しの日=========


それからの1週間は今までの友達にあいさつしたり、荷造りしたりして忙しかった。
そんであっという間に引越し予定日の今日ってわけ。

「尚史、正樹によろしくって言っといてくれな」

「迷惑かけないようにするのよ」

「はーい、行ってきま〜す」

おじさん元気にしてるかな?
いや、あの人の場合元気じゃないときはないか。
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