●● 猫=神様 --- はしたないのぉ ●●
さてさて、そんなこんなで家に帰ってきた俺なんだけど、
「むぅ、臭うのぉ」
隣でイナリが顔の下半分を袖で隠しながら小さく声をもらす。
「そ、そんなに?」
思わず学生服を掴み鼻に引き寄せる。
今日は特に運動らしいことしてないんだけどなぁ。
「いや。空気が匂うのじゃ…行けばわかる」
スタスタと俺の目の前を進んでいくイナリちゃんの後をクンクンとにおいを嗅ぎながらついていく。
う〜ん、特ににおいは感じないんだけどなぁ。鼻風邪ひいてるわけでもないし。
やっぱり神様ってのは人間よりも感覚とかもよくできてるってこと?
ガチャッ
イナリちゃんがリビングの扉を開けるとそこから、
「アルコ〜ル〜!!」
な臭いが漂ってきた。
っていうか、部屋いっぱいに充満してるような気がしないでもない。
「これ壁とかに染み付かないかなぁ?」
思わず壁に顔を近づける。うん、そこまで気にならない。
でも、これは酷いな。イナリちゃんも顔しかめてるし。
俺らが入ってきた扉から少し離れたところに置いてあるソファー。
そこに巫女服が布きれみたくなってる世界主さんが『乗っかって』いるのが見える。
「おぉ、我等がタカヒ君!!タカヒ君遅いから3本空けちゃったよぉ〜!!一緒に騒ごうと思ったのにさぁ〜」
飲んでたまりますかい。……呆れて怒る気も起きない。
っていうか、なんでこの部屋に一升瓶があるわけ?しかも3本。
俺がワンカップ買ってきた意味ないじゃん。
隣でイナリちゃんも袋を覗いてる…ってことは同じくパシられたってわけか。
「ほ〜らぁ〜早くこっちおいでよぉ〜料理が冷めちゃうよぉ〜」
世界主さぁ〜ん、それはおかしだから冷めないんですよ。
ついでに言うと、そのチップは噛むほどうまいんですよ。
そういえば光希はどうした?さっきから姿が見えないけど。
あいつなら世界主さんが酒飲もうとしても止めるだろうし…。
「グアシッ」
隊長!標的を発見いたしました!
しかもかなりの至近距………足元でありまっす!
っていうか、擬音を声にだすな。先輩じゃあるまいし。
「へクチュッ…………?」
「……スイマセン」
とりあえずくしゃみの聞こえた玄関外方面に誤っとく。
まったく、ジャストタイミングすぎ…。
「うぐぅ〜♪」
「『うぐう〜♪』じゃない。お前はとにかく離れろっ!」
「あう〜♪」
「言い方変えても一緒だ!」
なんかよくわからんが雪国が一瞬見えたぞ?
…くぅ。目がウルウルしてきた。
それにしても光希も顔赤いな。……もしやコイツも飲んだか?
「わぁい、にゃかちって双子だったんだぁ」
うぁ、乱視してやがる。知らないのかぁ?『酒は飲んでも飲まれるな』だぞ?
っていうか世界主の『タカヒ』はまだわかるけど『にゃかち』ってなんだよ。
アレか?最初に猫で登場したときみたいに「私猫好きだから〜♪」で済ませる気か?
…そのうち語尾に「〜〜だにゃぁ」とかつけそうで怖いわ。
「むぅ。光希までも…。しかも隆史の前で…少しは抵抗してほしいのぉ」
世界主さんは大人だし、なんとなく前よりは酔いも浅いみたいだからいいとして………しょうがねぇベッドに運ぶか。
こりゃ、明日の朝が大変だな…。いや、その前に寝られるかが心配だ。
深いため息をつきながらいまだに足にしがみついたままフニャけてる光希を抱き上げ、そのまま寝室へと向かう。
…ん。なんだその目はイナリちゃん。
ふと、今の自分の状況を見直す。
「イナリちゃん。言っとくけど寝かすだけだぞ!ベッドに乗っけてふとんかけるだけ!」
少しの間、目を細くして俺の顔を見ていたイナリちゃんだが、「むぅ」と頷いて世界主さんの相手をしに行った。
…う〜ん、俺って信用ないのな。
まぁ、会って一日で信用するのも考えものか。
ふと、運んできたベッドの上で眠っている光希の顔に視線を落とす。
コイツは来てすぐに打ち解けてたなぁ。いや、なんとなく来る前から俺のこと知ってたみたいだったけど…。
やっぱり守護者だからか?……ん?そういや、なんで光希は守護者に俺を選んだんだ?
アレ?そもそも守護者ってなんだ?…『後々話す』とか『私からはいえないよ〜』とかで今だにはっきりしてないぞ?
そういえば世界主さんも本当は世界治めてないといけないのにこんなとこでのんびりしてていいのか?
イナリのこともまだわからないし…
あ〜も〜、考えたら余計にモヤモヤしてきた。とにかく俺は知らないことが多すぎる!
「隆史ぃ〜。姉様が寝てしまう前にイナリの話をしておきたいのじゃがどうかしたかの〜?」
おっ。なんとかこのモヤモヤ感を1つくらいは消せるっぽいな。
少しほっとしながらイナリに声を返し、リビングへと向かった。
Copyright (c) 2007 Gentle impostor All rights reserved.
-Powered by HTML DWARF-