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● 猫=神様 --- したもんっ! ●

くぅ。こうなったら…!

「光希。ちょっとゴメン」

「ひゃぅっ」

背中にリュックサックのように覆いかぶさっていた体をコロンと転がすと、前に世界主さんがやっていたように細い腰に手を回してから持ち上げ――ってか、軽いなこいつ。女の子ってみんなこうなのか?――そのまま机の上を飛んで教室の後ろまで走る。

「ヤツを止めるんだぁぁああ!」

「独り占めなんてさせるかぁっ!!!」

何をどう勘違いしたのかクラスの男共が教室の前と後ろにある扉に終結し、俺の行く手を阻む。

「光希っ!こいつら吹きとばせ!」

「え?いいの?」

腕の中に抱えられ、こちらも何か勘違いしてるらしい赤い顔の光希を一度床に下ろすと、不安げに振り向かれる。
ってか、さっきは惜しげもなくガラスの破片を浴びせかけてたのに今更何を言うんだこの女神さんは。

「この学校の男は異常に丈夫だからどうぞご遠慮なく、真志がいい例だ」

「あ、そっか」

それで納得されるのもなんかアレだけど――ズドーン――なんて思ってるうちに教室の風通しがよくなった。

「え〜と。光希…手加減とかいう言葉知らない?」

「したもんっ!私悪くないもんっ!絶対ケッカンジュータクってやつだよっ!」

【神様取り扱い注意・其の三

 手加減しても火力は抜群】


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場所は屋上。俺のお気に入りの場所。
全速力で走ったし、念のために後方確認もしたけどさすがに追手(残党)もここまでは来ないだろう。

「で、なんで来た?」

腰に手を回して離れそうもない光希の頭に手を置いて尋ねると整ったまゆのある小さな顔がこちらを見上げ―――ふにゃぁ〜と崩れていく。って、オイ。
というか、このすぐに形状を保てなくなるほっぺたには筋肉が存在するんだろうか?

ふにっ

おぉ。なんだこれ。すげぇやわらかい。
餅でも入ってるのか?

引き伸ばしてみたりする。

うにょ〜ん

……って、いかんいかん癖になる。

「よくわかんないけどねぇ。お姉さまがガッコーに行けばずっと隆史と一緒だって言って一昨日からずっと情報操作の仕事してるの手伝ってたらこうなってたぁ」

「そうかぁ〜。世界主さんってすごいなぁ〜」



「ところでさ、世界主さんは苦手な食べ物とかあるかなぁ?」

「お姉さま、お魚食べれないよ〜。あ、私は全然平気ぃ」

「そっかぁ〜。光希は偉いなぁ〜」

「わぁ〜い誉められたぁ〜」

よし、今夜は刺身に決定。


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その頃…

「スクミズやブルマーにスパッツ、あわよくばチャイナ服にナース服、メイド服にドレス、裸エプロンに肌シャツなどのコスプレがちまたで出回っているが、私が注目したいのはその中でも一段トキメカセテくれるセーラー服だ。『露出が少ない』等と馬鹿にされることもあるが、露出が少ないことは短所ではない。むしろ長所なのだっ!」

ズズーッ。

「露出を抑えることによって乙女の純情さ、素直さという外見と同等に魅力的な部分を強調することができるのだっ!同時に、少女の胸の内に秘めたる野球少年にも勝る青春への煌めきを一層引き立てることも忘れてはならないっ!」

ズズズーッ。

「また、露出が少ないせいでエロ成分が足らないということはまったくもってない!制服ならではの圧迫により、いくらか窮屈きゅうくつそうな胸のふくらみを見よっ!胸元にはかなく揺れるリボンがほどけるその瞬間を見たくはないかっ!?そのあふれんばかりの芳醇ほうじゅんな果実をその手につかんでみたくはないかっ!?」

ズズーッ。

「青春をひたむきに歩ませ、風に吹かれる表情豊かなスカートを見よっ!その隙間から見え隠れする男にとって天国に近い領域に近づきたくはないかっ!?歩くたびに可憐に揺れ動くその天使のカーテンに包まれた魔法の空間に顔をうずめてみたくはないかっ!?」

ズーッ。

「またっ、評価すべきはその種類の多さっ!かつて一世を風靡ふうびしたスクミズでさえ黒、白、ライン、シースルー、リボンの5つしかバリエーションを生み出せなかったのに、セーラー服はといえばひとつだけでも季節によって表情があるうえに、その数は、下は小学生から上は高校生まで全国区で考えればキリがないっ!たとえ―――」

ガチャッ

「ねぇイナリちゃん。そろそろ朝ご飯食べようよ〜。私がご飯作れないことぐらい知ってるでしょ〜?なんだったら千葉っち呼んでお寿司でもとる〜?もう、疲れちゃったんだよねぇ〜――って、アレ?まだその子演説してるの?」

「姉様。今いいところじゃから…」

「というか。イナリちゃんうるさい子嫌いじゃなかったっけ?」

「むぅ」

構ってくれるなという意味合いのこもった瞳に睨みつけられた世界主は元から興味がないのか、単にお腹が空いていたのか。肩をすくめながらもあっさりと部屋の中に戻っていった。

「むぅ」

イナリの中で真志の高感度数値がやっとこさ自然数になった瞬間だった。
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